4人戦スイスドローの数理考
ドミニオン日本選手権が今年も開かれますが、タイブレイカーが「ゲーム総得点」なことにいたく不満なわけです(という話をしてるあたりのtwitterのログ)。
なぜかといえばドミニオンのゲーム内得点というのは、本質的にはゲームの外部に持ち出していい類の得点ではないから、とかいうあたりはGameDeepの最新号に書いたあたりなんでそういうもんだと思ってください。気になる人は https://gumroad.com/l/zrqQ あたりからPDF版をお買い上げいただくか、次の号が出てURLが公開されるのを待つといいですよ!
しかし一方で総得点を使う意味というのもあるわけで、想像するに「同意の上での引き分けを選びたいシチュエーション」を消すためには必要なんじゃないかと思います。タイブレイカーとしてもう少しゲームの意味を示す指標――たとえば1位取得回数を優先すると「全員同率1位で終われば全員通過できる卓」みたいなのが生まれてしまいそうだなあ、と。もしここで「同意の上で全員同率1位となるように仕組んだゲーム」を遂行することを選ぶ可能性がある。まあ具体的にはトップ卓とかそのすぐ下あたりがそうなるんじゃないかな。
ここで1位取得回数を優先すると、全員同率1位って超有利なので、同意引き分けで少ないラウンド点を手にしてタイブレイカー勝負に巻き込まれてもおそらく勝ち抜くことができる。しかしながら、(サプライにもよりますが)このメークアップしたゲームはおそらく全員の得点が低めになる。そこで総得点をタイブレイカーに使っておくと、同意引き分けしてタイブレイカー勝負になったとき、ガチで戦って総得点を伸ばしてきたもう少し下の卓のプレイヤーに負ける可能性が出てくる。であれば同意引き分けを選ばず真剣勝負をせざるを得ない――というだいぶパラノイア的思考の入った状況まで考えているとしたら、最終戦のサプライには特殊勝利点系のカードを使ってガチった人が得点をガンガン伸ばせる仕掛けを組み込むほうが抑止力高いですよね! という謎の牽制を空打ちしてみたりするわけです。
ところで実際どのぐらいが勝ち抜けるラインなのか、ということについてたぶん大会当日になってスイス形式のラウンドが進めば感覚的にものが話されようかと思いますが、なんかそこを感覚で話しちゃうのはもにょもにょした気持ちになるので少し真面目に考えてみましょう。ということでお題目に掲げたところの「4人戦スイスドローの数理考」という話になります。
スイスドローの特徴
さてスイスドローという形式について改めておさらいしておきますと、
- 競技ゲームの大会における、組み合わせ決定方式
- そのラウンドまでの合計成績が近いもの同士を組み合わせて対戦させる
- 実は数理的には「敗者復活戦のついた勝ち抜き形式トーナメント」に非常に近い
というような特徴をもっています。最後の項目について説明しておきますと、強い(勝ってる)人は強い人同士で戦いますから、その時点での全勝者はだいたい全勝者と戦うことになります。回戦数にもよりますが、最低限の回戦数でやる場合、全勝者同士がお互い潰しあって、最後まで勝ちっぱなしだった人が大会の勝者となる、というのが大雑把なスイスドロー形式トーナメントの動きです。
さてスイスドローというのはもともとが(スイスで行われた)チェスの大会において使われはじめたものですので、2人用のゲームで使われている例は非常に多いです。そして大会自体の数理的な動きも(実践例が多いこともあって)だいぶ研究されています。しかし4人用のゲームでスイスドローっぽい形式を採用し、その動きを研究してる例はとんと見たことがございません。
まあ2人用の動きを4人用に拡張して考えればだいたいのところはわかるんで、なんとなく感覚で適切な運用がこなせちゃう人は世の中に一定数いるかと思いますので研究がなくてもそんなに困らないと思いますが、まあ折角なので少しばかり頭をひねって考えてみましょう。
4人戦スイスドロー
さて本来2人戦用のスイスドローを4人戦に拡張するときにまずネックとなるのが、全勝者がすごい勢いで減っていくという点でありましょう。
大雑把にいうと、2人戦ゲームのスイスドローはラウンドをこなすと全戦者が半分に減ります。4人のスイスドローなら2回戦をやれば1人の全勝者が残るし、16人のスイスドローなら4回戦をやれば1人の全勝者が残ります。この最低ラウンド数でやったスイスドローというのは、いちおう「その時点での勝者」が決まってはいますが正直あんまり精度のいいものではないので、より精密に決めたいときは成績上位者だけを残して別の形式で決勝戦を行ったりすることが多いです。
これが4人戦になると、劇的に全勝者が減ります。16名の大会だと2回戦やると全勝者が1人になります。2回勝てばやったね優勝!16名の中で最強だよ!というわけです。人数が多くても少ないラウンド数で結果が出るの嬉しいですね。万歳!
とか安易に言ってられないのは、4人戦のゲームという「勝敗決定装置」の出す「ゲームの結果=実力の測定値」の精度が、実のところあんまりよろしくない点にあります。2人戦のゲームというのは、「勝敗決定装置」としては実に理想的で、ゲームに負けた理由はほぼすべて自分の行動に責任が帰着します。「お前が格下だったから俺に負けたのだ!」と正々堂々宣言してしまえばいいです。しかし4人戦のゲームは違う。「お前が俺に負けた理由はお前以外の2人が格下だったから」ということが平気で起こります。なので、2人戦のときよりも全勝でない人をもう少し救う手立てが欲しいです。
幸か不幸か、4人戦スイスドローの場合には序盤に対戦して一度雌雄を決したあとで一部の面子が入れ替わりつつも再戦ということをやれなくもない。自ら序盤のラウンドでの負けを挽回するチャンスを用意できるわけです。ただし、これを活用するには人数に比して回戦数が多めに設定されている必要があります。16名で2回戦、とかだと再戦の余裕がまったくないのです。3回戦だと64名まで収容できますので、そこでだいたい40名ぐらいに抑えておくと、こういったチャンスはだいぶ増えてきます。
16名2回戦をやった場合、1位-2位-3位-4位の取得回数は以下のような分布になります。
2-0-0-0 | 1人 |
1-1-0-0 | 2人 |
1-0-1-0 | 2人 |
1-0-0-1 | 2人 |
0-2-0-0 | 1人 |
それ以下 | 8人 |
この大会でスイスラウンドのあと、上位4人で決勝卓をやるとしましょう。上から3人まではすんなり決まります。問題は1-0-1-0の2人。この2人のどっちを決勝に残すかの選択に使われるのが、スイスドローにおけるタイブレイカーの役割であり、それしか役割がないと言ってもいいです。他の人にとってはほぼ無用の長物です。
少し考えるとわかるのですが、4人戦ゲームの16名2回戦のスイスドローというのは実に過酷な戦いです。1度でも4位を取ればもうその時点で上位4人にすら残れないことが確定します。2人戦なら1敗は単なる1敗、トーナメントリーダーは無理でもそこそこのポジションは狙えなくもないですが、4人戦ゲームは容赦ないです。一度4位になっただけで全体順位は5つぐらい落ちてます。全体の中での格付けが1/3ぐらい低下する、というわけです。
ちなみに下のほうを切っているのはなんらかの悪意があるわけではなく、切っておかないと、回戦数を増やした話をするときに大変になるからです。
64名3回戦の場合
ということで回戦数増やしてみましょう。64名3回戦になると次のようになります。
3-0-0-0 | 1人 |
2-1-0-0 | 3人 |
2-0-1-0 | 3人 |
2-0-0-1 | 3人 |
1-2-0-0 | 3人 |
1-1-1-0 | 6人 |
1-1-0-1 | 6人 |
1-0-1-1 | 6人 |
1-0-0-2 | 3人 |
0-3-0-0 | 1人 |
0-2-1-0 | 3人 |
それ以下 | 27人 |
ひとつ注意してほしいのは、今回の表では2位以下のラウンド点までは考慮してないってことです。3戦全部2位をどう評価するかってのは実に難しい問題です。
ドミニオン日本選手権の場合1位から6-3-1-0というポイントが着きますので、3戦して全部2位なら9点、1-1-0-1の人とは並ぶことができ、タイブレイカーが総得点なら9点勢トップの20位までは進出できる可能性があります。
それはそうと、これで上位4人とかだとマジ過酷過ぎて泣けますね。4着はおろか3着ですら1回取ったらアウト。2位ですら1回しか許されません。ではどのへんまで人数減らせばいいのかなー、ということを考えるときには、本当は正しくないやりかたですが、最大人数に対する割合を掛けるか、逆に順位の方に逆演算して換算した順位を基準に元の表と照らし合わせると、目安としてはいい数字が出てきます。たとえば32名3回戦だと、32/64=1/2ですから、
3-0-0-0 | 0.5人 |
2-1-0-0 | 1.5人 |
2-0-1-0 | 1.5人 |
2-0-0-1 | 1.5人 |
1-2-0-0 | 1.5人 |
1-1-1-0 | 3 人 |
1-1-0-1 | 3 人 |
1-0-1-1 | 3 人 |
1-0-0-2 | 1.5人 |
0-3-0-0 | 0.5人 |
0-2-1-0 | 1.5人 |
それ以下 | 13.5人 |
とこんな感じで考えるわけです。これで上位4人だと2-0-0-1の1.5人の中から選ばれる感じですね。4位を取ってしまっても2勝すれば可能性はある、ぐらいの感じになってきます。
256名4回戦の場合
で、4回戦256名だと以下のようになります。
4-0-0-0 | 1人 |
3-1-0-0 | 4人 |
3-0-1-0 | 4人 |
3-0-0-1 | 4人 |
2-2-0-0 | 6人 |
2-1-1-0 | 12人 |
2-1-0-1 | 12人 |
2-0-2-0 | 6人 |
2-0-1-1 | 12人 |
2-0-0-2 | 6人 |
1-3-0-0 | 4人 |
1-2-1-0 | 12人 |
1-2-0-1 | 12人 |
1-1-2-0 | 12人 |
それ以下 | 149人 |
この規模で上位4人だけ選抜とかだいぶヒドい戦いです。3-1-0-0ですらタイブレイカー勝負というありさま。
それから2位の重要性もだいぶ重くなっていて、これをドミニオン日本選手権のラウンド点考慮して並べ替えてみますと、
4-0-0-0 | 24 | 1人 | |
3-1-0-0 | 21P | 4人 | |
3-0-1-0 | 19P | 4人 | |
3-0-0-1 | 18P | 4人 | |
2-2-0-0 | 18P | 6人 | |
2-1-1-0 | 16P | 12人 | |
2-1-0-1 | 15P | 12人 | |
1-3-0-0 | 15P | 4人 | ↑ |
2-0-2-0 | 14P | 6人 | ↓ |
2-0-1-1 | 13P | 12人 | |
1-2-1-0 | 13P | 12人 | ↑ |
2-0-0-2 | 12P | 6人 | ↓ |
1-2-0-1 | 12P | 12人 | |
1-1-2-0 | 11P | 12人 | |
... |
1位を取った回数よりも2位を取った回数の多いほうがラウンド点が上回るケースが、示した範囲の中では2箇所でおきています。ただし、ここから下では1位-2位間の差が2倍なのに対して2位-3位の差が3倍とされているせいで、この類の逆転現象は起きないようになっているはずです。
もしこのスイスラウンドに対して1度の4着をなんとか挽回できるラインを設定するなら通過基準は10位〜13位あたりを含むようにするのが目安で、現実的には12人か16人で決勝ラウンドを行う、といった感じになりそうですね。
ドミニオン日本選手権2012の場合
それではいよいよ本題、ドミニオン日本選手権2012の予選ラウンド、最大160名4回戦で30人通過、というのがどのぐらいに当たるかを今度は逆演算法で考えてみましょう。30 * 256 / 160 = 48となりますので、160名での30位というのは、256名の場合の48位ぐらいに相当することになります。
4-0-0-0 24P | 1人 | 1位 | |
3-1-0-0 21P | 4人 | 2-5位 | |
3-0-1-0 19P | 4人 | 6-9位 | |
3-0-0-1 18P | 4人 | 10-13位 | |
2-2-0-0 18P | 6人 | 14-19位 | |
2-1-1-0 16P | 12人 | 20-31位 | |
2-1-0-1 15P | 12人 | 32-43位 | |
1-3-0-0 15P | 4人 | ↑ | 44-47位 |
2-0-2-0 14P | 6人 | ↓ | 48-53位 |
ということで、見事に2位順位点の力で順位の入れ替えが起こっている15Pラインが当落線上に浮上する設定。3位と4位に実質的な差はほとんどなく、仮に3位4位に沈んでしまった場合でも残り3戦のうち1度の2位は許される、といった感じでしょうか。
ちなみに去年の私の成績(1位-3位-1位-3位)だと、2-0-2-0で見事当落線からおっこちかけてるあたりですので160人フルだった場合は厳しいんじゃないの、ということになりますね。
ということで「1回ならボロ負けしてもいいけど、どっちかというと2位には食らいつけ」という傾向が数理的に明らかになったことを知った皆様の作戦はどのようにかわるのでしょうか、ということを無責任につぶやきつつ本稿を終えたいと思います。ありがとうございました。