ドミニオン:カードの版面デザインを考える

ドミニオンが登場し、その斬新な内容で界隈を席巻し、いくつかのフォロワーが出てくるようになった。しかし後発のデッキ構築型ゲームの多くは、いざ遊んでみるとなぜだかドミニオンより遊び辛く感じてしまう。
決して不思議なことではない。後発のフォロワーたちでは(ドミニオンとの差をつけるために)なんらかの要素が加えられ、システム面での複雑性が高まっている――わかりにくくなっていることが多いからだ。だが、後発のフォロワーとドミニオンの差は、単にシステム面での違いだけではない。


「わかりやすさ」につながるもっと基本的な部分、ドミニオンの「わかりやすさ」をなにより支えている「コンポーネント」の形、カードの版面デザインについても、やはりドミニオンは優れている。

○ゲームの導入

ドミニオンの基本システムが持っている要素は、極めてシンプルだ。
ベースとなる7種のカード:銅貨・銀貨・金貨・屋敷・公領・属州・呪いを見ればわかる。全てのゲームで使われるこれらのカードには、余計なことも複雑なことも一切書かれていない。
ゲームのはじめ、デッキには3枚の屋敷と7枚の銅貨が入る。これらのカードの意味は、一目瞭然となるように作られている。背景色で機能が示され、大きく書かれた数字で効果が書かれている。左下に書かれた○囲み数字――購入するときの価格のことさえ説明されれば、初期デッキの中身は全て把握できるぐらいにシンプルだ。

○サプライにて

それ以上に複雑なことは、すべて王国カードのテキスト欄に押し込まれている。

ゲームが開始され、サプライ(カード売り場)に目を向ければ、最初の手札と、並んだカードは明らかになにか違う。
手札にある得点と財宝にはテキスト欄はない。大きな数字とマークだけが書かれている。
だがサプライに並んだカードを見れば、そこにはカードの半分ほどを占めるテキスト欄があり、なにやら複雑なことが書かれている。わかりやすいことは太字で大きく、わかりにくいことは小さな字で細々と。パッと見でわかりやすいかわかりにくいかも見た目でわかる。
カードの名前とイラスト、それからテキスト欄に書かれた効果が、10枚ぶん一気に並べられているので、なんだか混乱するかもしれない。だが全てはテーブルの上に並んでいて、どの情報も苦労することなく参照することができる。
テーブルの上に平たく置かれることで、その状態のカードは「一覧表」としての効果を発揮しているのだと言える。

並んだカードのテキストを読んで、わからなければ質問をして、効果を確認したうえで、左下隅に書かれたコストを支払って購入することになるだろう。

○手に持つ

買ったカードがシャッフルを経てデッキに入って手元にやってきたときにも、ドミニオンのカードの版面の力が発揮される。

次のターンに向けた手札がやってきて、まず行われるのは分類だ。
幸いドミニオンのカードは、わかりやすく色分けされている。はっきりと枠が色分けされているので、中身を見なくても種類だけならすぐにわかる。
財宝は黄色の枠にコインマーク。得点は緑の枠に盾のマーク。これらは「アクションを消費しないでも効果が発揮されるもの」だ。手札の中では脇に置いておかれる部類だろう。
自ターン中の主役となるアクションカードは主に白枠。
他人のターン中でも使うことがあるリアクションは青枠。
ドミニオン:海辺で追加された「持続アクション」は橙枠で、ターン終了時の片付けのときに気が付きやすくなっている。


さて、そうやって分類されたカードをいったいどう持つだろうか?
手の中のカードは(トランプなどのときと同様に)左手でカードの左下隅を持っていることがほとんどだろう。このとき、実はカードの名前はほとんど見えない。せいぜい先頭の一文字ぐらいで、おそらくは枠とイラストのごく一部分しか見えていない。
だから、カードの認識をする上で最初の情報となるのはイラストだ。
枠とイラストでカードを認識し、よくわからなければカード名をちょっと見て思い出す。それでもわからなければカードの全面を見てテキストを読んで確認する。


だがちょっと待て、なんでイラストなんていう「意味を持たない情報」を上に持ってくるんだ。そんなことよりテキスト欄を上にしたほうが、という意見もあるかもしれない。
なるほど一理はある意見だ。でもドミニオンにおいて、その理は明白に否定される。

○あなたの選択でデッキに入る

思い出して欲しい。ドミニオンが「デッキ構築型ゲーム」であることを。
デッキ構築型ゲームにおいて、デッキの中のカードとは(初期の手札を除けば)プレイヤーであるあなたが選択して獲得したものばかりのはずだ。あなたが選んで買ったから、デッキの中に入っている。すなわち、あなたはそのテキストとイラストと効果とコストを確認した(もしくは確認するまでもなく憶えていた)はずなのだ。


だから手札の中のカードについて必要なのは、仔細な説明ではない。
そのカードの名前がなんであるか思い出せれば、効果はもう知っている「はず」だ。そして目の前にはサプライという見本集がある。枠の色とイラストがあれば思い出すには十分だし、ちょっとずらせばカードの名前もすぐわかる。
手札の中にあるカードとは「思い出す」ための情報を提供するものであり、そのための情報はちゃんと左上隅に集まっている。
いきなり未知のカードの束を渡され、把握しながらプレイしろ、と言われたわけではない。プレイヤーが納得したうえでの選択の結果、デッキの中にはそのカードが入っていることを忘れないほうがいい。それでもなお、手札のカードの効果がすぐにはわからないのは欠陥だ、と断固主張するのであれば、さっき食べたお昼ごはんのことを忘れていないかを心配したほうがいいだろう。


ところでカード左上隅の情報には1系統だけ例外があって、財宝で得られる価値は左右両方の上隅に小さく書かれている。左上隅だけ見れば手札の中のお金の量は計算できる、というわけだ。もしも上下逆にカードが来た場合でも右下隅は空欄だから、購入コストを財宝の価値と勘違いしてしまうこともないようになっている。

○リサイクルを考える

購入コストが左下隅なのもおそらくは意図的だ。
カード左下隅は、通常カードをまとめて持つために手で握るための場所である。すなわち、テーブル上に平置きされているときには見えても、手札の中では見えにくい場所なのだ。
しかも左隅であるため、その気になれば一覧しやすくもある。破棄したカードのコストを見て効果を得るようなアクション――改築や引揚水夫など――を使う場合、手札のカードのコストを一覧したくなる。普段は見せたくないが、たまに一覧したい情報=カードの購入コストを示すための場所として、左下隅というのはうってつけの場所だと言える。

○まとめ

というような観点で他のデッキ構築型カードゲームの版面を見ると、いろいろ問題のある箇所が一目でわかるようになる。

  • 財宝に相当するカードの価値がテキスト欄
  • 購入コストが左上隅
  • リアクションや持続カードの色分けがない

といったあたりはよく見かけるところ。
とはいえデザイン上で考えるべきは機能性だけではない。特にイラストレーターの絵を大きく見せたいというニーズによってデザイン上の制約を受けていたりもすることは多いだろうし、その上での選択であるならば上記のポイントが一概に悪いとは言えない。
それにドミニオンのデザインだってカードとしての機能性だけに特化しているわけではない。「カード名を左寄せにする」「カード名を左辺に書く」あたりは機能性としての改良点に挙げることができるだろうが、実際やってみると見た目のバランスは悪くなるはずだ。


これからカードゲームをデザインして、カードの版面を作るという人がいるのなら、版面デザインをする上での重要なポイントとして

  • 手の中で「思い出す」ための左上隅
  • 平場で見えて手で見えない左下隅
  • 色分けは大切

を意識するといいだろう。